漢字探検隊

Vol.9

現代に伝わる、歌舞伎のことば

このコーナーでは、はるこ先生が漢字にまつわるさまざまな話題を皆様にご紹介します。

2013.04.09

江戸時代初期にはじまり、400年の伝統を誇る歌舞伎。
1889年(明治22年)の開場以来4度目の改築を終え、2013年4月2日に開場した歌舞伎座は、2年11ヶ月ぶりの再開を待ちわびた観劇ファンで連日にぎわっています。

歌舞伎座のこけら落とし

歌舞伎座の真新しい白い壁には、「歌舞伎座」や「杮葺落こけらぶきおとし四月大歌舞伎」などと書かれた大きな垂れ幕が下がっています。この独特のデザインの文字は「勘亭流」とよばれています。
江戸時代、1779年(安永8年)の正月に、江戸中村座・九代目の座主、中村勘三郎が中村座の看板や番付を書家・岡崎屋勘六に依頼したのが始まりだそうです。勘六氏の号「勘亭」を流名とした書体はたちまち大好評を博し、歌舞伎文字として定着しました。

勘亭流には3つの願いをこめた工夫がされています。

  1. 文字の線を太くして隙間をすくなくし、客席に隙間がなく満席になる
  2. 線を尖らせず、文字に丸みを持たせて、興行の無事円満を図る
  3. ハネルところは全て内側に収め、お客をハネ入れる

縁起のよい勘亭流は、歌舞伎の伝統とともに今日まで受け継がれています。

ところで、「杮葺こけらぶき」とは薄く細長く削いだ木片で作った屋根のことです。劇場を新築する際、建築工事の最後に屋根の「こけら」を払い落としたことから、劇場完成後の初めての興行を「杮葺落」=「こけら落とし」と呼ぶようになりました。
新しい歌舞伎座は瓦葺の豪華絢爛なたたずまいですが、「杮葺の粗末な芝居小屋が完成しました」という謙遜の意味がこめられているそうです。

歌舞伎が由来のことば

ほかにも、歌舞伎の世界から生まれ、今でも使われている言葉はたくさんあります。

二枚目

優男やさおとこの美男子のことを「二枚目」と言うことがありますが、これは、歌舞伎の番付で、二枚目の看板に若い色男の役者の名前が書かれることに由来しています。

主役は一枚目で、中心的人物のことや人に誇れる唯一のものを「一枚看板」と呼ぶのにも通じています。
また、道化役は三枚目に書かれるため、現在でもコミカルな役の俳優は「三枚目」と呼ばれます。

鳴り物入り

スポーツニュースで「ドラフト1位、期待の大型新人が鳴り物入りでデビュー」などと使われる「鳴り物入り」。
「鳴り物」とは、歌舞伎で使う太鼓や笛などの楽器のことです。伴奏として舞台をにぎやかに囃し立てるところから、大げさな宣伝が行われることを「鳴り物入り」と言うようになりました。

十八番おはこ

カラオケで自分が一番得意な曲を「おはこ」と言うことがあります。
腕に覚えのある特技や芸のことを、「十八番」と書いて「おはこ」と読みます。

七代目市川団十郎が、市川家が代々得意としていた演目の台本を18種選び、桐の箱に入れて保管しておきました。この18種の演目が「歌舞伎十八番」と呼ばれていたことから、箱に入った十八番=「おはこ」というようになり、さらに得意とする芸の意味でも使われるようになったようです。

幕の内弁当

江戸時代、歌舞伎は日の出から日没まで上演される、一日がかりの娯楽でした。そこで、芝居の幕と幕の合間に観客が食べるお弁当を「幕の内弁当」と呼ぶようになったといわれています。

ご飯は、俵型のおにぎりを並べて、ゴマをまぶしたものが本来のかたちとのことですが、最近はおにぎりにせず、俵型の型押しをしたものが多くなっています。
おかずは、卵焼き、かまぼこ、焼き魚、煮物、お漬物などを、少しずついろいろ詰め合わせます。一口大のおかずは、芝居の合間に手早く食べられるように工夫されています。

写真は歌舞伎座場外(地下2階)で販売されている幕の内弁当です。かまぼこが定式幕じょうしきまくと同じ、黒・柿色・萌葱の3色になっています。ご飯もゴマではなく、ゆかりと錦糸卵がまぶしてありました。

季節の味覚を取り入れた上品な色合いのお弁当は、今も昔も歌舞伎鑑賞を彩る楽しみの一つですね。

※ 撮影に使われた幕の内弁当は、この後はるこ先生がおいしくいただきました。

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